2016年に、発売から30周年を迎えた『ドラゴンクエスト』。
そのゲーム音楽を、本物のオーケストラで聴くことができるドラクエコンサートが、全国各地で開催されています。
歴史のあるドラクエシリーズの中でも、私が知っているドラクエはほんの一部なのですが、ゲームをしている時の音楽はとても好きで印象に残っています。
偶然知ったドラクエコンサートの情報だったのですが、正直に言って、最新のドラクエならまだしも、未だに十数年前の作品のコンサートが開催されているということに驚きました。ドラクエの人気の高さを実感しました。
私にとっては、「懐かしいし、ドラクエの音楽は好きだし、オーケストラの生演奏も好きだからちょっと行ってみよう」という軽い気持ちだったので、B席という一番お安い席で見ることにしました。
そして、ドラクエⅣとドラクエⅤの2つのコンサートに行ってみることにしました。
どんな客層で、どんな服装なのか…
私は、一人でのコンサート鑑賞だったのですが、気になっていたのは、女性一人で行っても場に溶け込めるのかという点でした。また、オーケストラのコンサートであれば、少し綺麗にしていったほうがいいのかなという点も気になりました。
ドレスコードが分からないので、念のためカジュアル過ぎないワンピースを選択したのですが、いざ会場に行ってみると、みなさん非常にカジュアルなスタイルの方が多かったです。
そして、客層ですが、老若男女といった感じです。小学生連れのご家族、母と息子、スーツ姿の男性とその彼女らしき方、友達と来ている学生、40~50代のご夫婦、そして、一人の方もけっこういらっしゃいました。
男女比も半々といった感じで、本当に幅が広く、お客さんだけを見ていると、とてもオーケストラのコンサートとは思えません。服装も含めて、普段の街中と変わらない雰囲気なので、初参加でもほっとしました。
当日頂いたパンフレットによると、すぎやまこういちさんは、このドラクエコンサートが『青少年のオーケストラ入門になれば』との思いでオーケストラによるコンサートを開催しているとのことで、まさに、初めてオーケストラに触れるという方でも、気軽に足を運べるコンサートだなと実感しました。
B席には色んな席が
会場によって、座席はS席、A席、B席と設定が異なってきます。私はB席でしたが、B席がどこに配置されているかも、会場によって違います。
私が行ったドラクエⅣとドラクエⅤも会場がそれぞれ異なっていたので、同じB席でもコンサートの印象が全く違うものになりました。
今まで体験したことのあるB席は、2階部分より上の座席なのですが、正面ではなくサイドの席もあります。つまり、バルコニー席などとも言われる桟敷席(さじきせき)です。
ある会場では、ステージを端から端まで全部見ようと思ったら、身を乗り出さなければ見えず、かと言って自分が身を乗り出せば、隣の席の人にとっては私が視界の邪魔になり、ステージが完全に見えなくなってしまうという席です。
一方で、ステージがぐるりと360度客席で囲まれたタイプの会場もあります。オーケストラの後ろにも客席があって、演奏者の背後にお客さんがいるという感じです。
今回、私は両方のタイプのB席を体験したのですが、360度タイプの会場のB席が、非常に楽しいものだと知りました。
パーカッションが目の前!打楽器の凄さを知る
360度が客席の会場は、ドラクエⅣのコンサートでした。私の席は、ちょうどサイドとステージの後ろ側にかかる間の席で、目の前には、ティンパニーという大きな太鼓がありました。
普段、正面からよく見えるバイオリンなどの弦楽器は、今回はほとんど見えません。演奏者の後ろ姿ばかりです。
しかし、この角度で見るオーケストラは新鮮で、指揮者の顔が正面から見えるのです。指揮者は、手振りだけではなく、鼻から息を吸う音でも合図をしているというのがよく分かりました。
そして、演奏に参加する部分が非常に少ないと感じるパーカッション。どんな楽器をどう鳴らしているのか、普段はよく見えないため分かりにくいパーカッションです。これが、ドラクエのコンサートでは、非常に重要な音を秘めていて面白いのです。
「この場面の、あの可愛い音は、こういう楽器で鳴らしているのか」という発見ばかりで、次はどの楽器…次はどの楽器と、とにかくパーカッションを目で追うのに必死です。しかも、普段よりもすぐ近くで見えるので釘付けです。ステージの真後ろの席の人も、覗き込んで見ていました。
コンサートは、ゲームのストーリ展開に沿って音楽も進むのですが、それぞれの場面で印象深かった音が、どんな楽器を使っているのかが分かって、単なる耳で聴く音楽ではなく、目で理解するとより楽しめるのが、ゲーム音楽のコンサートの魅力だなと思いました。
パーカッションで一番印象的だったのは、マーニャ・ミネアの戦闘曲『ジプシー・ダンス』で重要な、あの軽快なカスタネットの音。あの場面では、確実にパーカッションが主役だと思いました。
すぎやま先生も登場する、感動の2時間
ドラクエコンサートは、それぞれの会場で演奏する楽団が異なりますが、実績のある有名な楽団ばかりです。本物の音ですので、それだけでも感動があります。
コンサートは、すぎやまこういちさんが司会のような形で、その作品に対するお話をして下さいます。ドラクエへの熱い想いや、会場がドッと沸くような笑いも交えながらのお話は、もっともっと聞いていたいほどです。
2016年の9月に、『世界最高齢でゲーム音楽を作曲した作曲家』として、ギネスブックに登録されたそうなのですが、ドラクエⅣを作曲したのが60歳の時だったとおっしゃっていました。当時の年齢でもすごいのに、現在86歳で、なおも最新作のドラクエに挑んでいらっしゃるというのが、本当にすごいです。
先ほども少し触れましたが、コンサートは、ゲームのストーリーを追うように音楽が進んでいきます。曲を聴きながら、忘れている内容もあるものの、懐かしくゲームの場面を思い出します。
ドラクエを代表する『序曲』。これを聴きたいがためにここに来たと言ってもいいぐらいの興奮が体を駆け巡ります。序盤は気分が高揚して力がみなぎってくるのに、曲の終盤は、なぜか涙が出そうなほどの感動に落ち着きます。
心地良かったり、楽しくなったり、途中にある塔や洞窟の音楽では、眉間にしわが寄るほどの不快な気分になったり。ラスポスの曲では思わず力みながら聴き入ってしまいます。
そして、エンディングの曲で感動に満たされ、会場は拍手喝采です。拍手の鳴りやまない中、すぎやまこういちさん自らが指揮をふってのアンコールで幕を閉じました。
余談ですが、オーケストラのコンサートは、拍手をするタイミングがいまいち分かりません。毎曲終わるごとに拍手をしたい気持ちなのですが、メドレー形式だったりすると、どこが曲の終わりか分からないので難しいなといつも思います。
良い音楽を聴いて、非常に良い気分で会場を出ると、大学生ぐらいの女の子ふたりが「やばいやばい」「感動がやばい」と言いながら、興奮した様子で歩いていたのが印象的です。こちらまで、温かな気分で満たされました。
あっと言う間の2時間のコンサートでしたが、この感動は一生ものだと思いました。そして、また行ってみたいという気持ちになりました。
何十年経っても、ドラクエ音楽は色あせることがありません。そして、この先もコンサートが続いていって欲しいと思います。